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背景と動機:社会情勢と連動するムーブメント

SAGAMİ

4月以降、トルコのSNSでは、特定のブランドに対するボイコット運動と、週に一度の購買活動を控えるノーマネーデームーブメントが活発化しています。その背景には、与党AKPの対抗勢力と目されていたイスタンブール市長のエクレム·イマムオール氏の大学卒業資格取り消しと、それに続く拘束·逮捕という3月末の出来事がありました。この事態に対し、野党CHPは抗議集会を開催しましたが、多くの大手メディアがその様子を報じませんでした。これを受け、野党支持者を中心にテレビ局へのボイコットが呼びかけられました。その後この動きは、野党によるメディア批判に留まらず、卒業証書の価値が政治情勢によって左右されることへの不安を抱く大学生や、深刻なインフレによる生活苦を感じる人々の社会の不公正さに対する不満を取り込んで拡大していきました。

さらに、このブランドボイコットの動きは、2000年代初頭から世界的に広まっているノーマネーデームーブメント(NMD)と結びつきました。トルコのSNS上では「ノーマネーカレンダー」が共有され、毎週特定の曜日に大手スーパーマーケットやEコマースサイトでの買い物をボイコットし、地元の小売店や個人商店での消費を促すという独自の展開を見せています。日本でも節約法の一つとしてよく知られているNMDが、政治と結びついた興味深い例と言えるでしょう。

広告・コミュニケーションへの影響:企業が取るべき戦略とは

広告代理店の立場から見ると、この状況は特にBtoC企業にとって無視できない大きな変化であり、慎重な対応が求められます。

トルコでは、今回のムーブメントが発生する前から、ガザ地区への攻撃に対する抗議としてイスラエルと関係があるとされる企業のボイコットリストがSNS上で拡散されていたという土壌がありました。トルコのインターネットユーザーには、政治的な情報に影響を受けやすい層が一定数存在し、企業の姿勢に非常に敏感です。

日本企業においても、この状況を十分に理解し、慎重な市場分析とコミュニケーション戦略を練る必要があります。トルコはインターネットユーザー数が世界でも有数で、最新のデータではInstagramアプリを581.5回/月起動しており、これは世界で最も高い頻度となっています。(Hootsuite Blog, 23 Instagram demographics marketers need to know in 2025) さらに18歳以上の人口に対するİnstagram広告リーチ率は88.3%で、世界最高水準です。一方、ネットリテラシーが低い層も少なくありません。そのため、広告を使用して誘導される意図的なものを含め、SNS上での炎上が日本と比較して起こりやすいという特性があります。

実際、イスラエルとは関係のない国に本社を置くブランドがボイコットリストに掲載される事例も見られ、この中には日本企業もありました。これらの企業の担当代理店は、一時的な広告出稿の差し止めや本国の企業イメージを前面に押し出すコンテンツを作成するなどの対応を求められましたが、場当たり的であったことは否めません。

今回のボイコット運動は、そのきっかけが野党の抗議集会であったため、主として与党に近いとされるブランドのリストがインターネット上に出回りました。この中には、右図のようにいくつかの日本ブランドも含まれています。その多くは、合弁先のトルコ企業がリストアップされたことによる「流れ弾」と言えるでしょう。

しかし、元々高インフレによる消費活動の停滞が見られる中で、NMDムーブメントによる消費控えがさらに深刻化し、実際に売り上げが落ち込んでいる企業にとって、ボイコットリストに掲載されることは更なる打撃となります。

残念ながら、トルコの一般消費者、ましてやSNS上の情報に影響を受けやすい層に、日本企業が経済活動と政治活動を明確に切り離して考えていることを理解してもらうのは容易ではありません。

今後も起こりうるSNS上でのボイコット運動による炎上リスクを避けるためには、流動的なトルコの消費者意識に一喜一憂しない、合弁先であるトルコのホールディング企業や大手グループ企業のイメージを凌駕するブランドアイデンティティを確立することが、トルコでの事業を守る上で不可欠となるでしょう。

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